私はベルリーノ(Ich Bin Ein Berlino)
昨日、ボルトは世界記録を出せる気がしないと言っていましたが、いとも軽くやってのけました。
この日、ボルトは、"Ich Bin Ein Berlino"(「私はベルリーノ」)と書かれたTシャツを着てトラックに現れました。これは言うまでもなく、故ジョン・F・ケネディの "Ich Bin Ein Berliner"(「私はベルリン市民」)という言葉に敬意を表しつつも、ひとひねり加えたものです(私もある理由からあのマスコットが好きです)。何も言わずにカメラの前に立ち、その文字が見やすいようにシャツを引っ張りながら、「僕は陸上界の、そして世界中のアスリートにとってのマスコットなんだ」と力強く言いました。
舞台は整いました。
ボルトは、笑みを浮かべておどけながら、隣のレーンのスピアーモンにパンチをする真似をし、カメラや観客に向かって大げさに表情を作ってみせました。準備はできていました。スタジアムは満員で、フラッシュがまばゆいばかりにたかれ、熱気は最高潮に達しました。やがて選手たちがコースに立ち、その中央でボルトはただ微笑みながらリラックスしています。
8名がスターティングブロックにつきました。1回目のスタートは、フライングでやり直し。ボルトは少しも動じることなく笑みを浮かべました。重ね着した2枚のシャツを引っ張り、リラックスした様子で鮮やかなオレンジのプーマ ヤームをスターティングブロックに合わせます。
スタートの号砲が鳴りました。ボルトは最高のスタートを切りました。コーナーを回ったときには、すでに独走状態ですが、スピードを緩めません。顔を横に向け他の選手を見ることもなく、ただ一心にフィニッシュラインを目指します。
ラインを越えたボルトは時計に目を遣りました。19秒20の世界新記録。ボルトはかがみこみ、祈りのポーズを取って自らを祝福すると、数歩歩いてからトラックに倒れ込みました。その姿は、群がるカメラマンの中に消えました。レースをゆっくり振りかえる暇もありません。ボルトは19秒19の公式タイムが表示された時計の隣でポーズを取りました。
そして、ベルリーノの姿を見つけました。
一緒に少し走ってから、2人そろってカメラの前でいつものポーズをとり、軽くダンスを踊りました。こうしてボルトは伝説となりました。この競技のマスコット、世界中のアスリートにとってのインスピレーション、一国の誇りとなり、幸運にも彼の走りを目撃した人すべてに純粋な喜びをもたらしたのです。
今のボルトを祝福するには、「おめでとう」のひと言だけでは言い尽くせません。